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銀行を襲撃したテロリスト達は、たった一人の、武器すら持たぬ男の手によって瞬く間に制圧された。何が起きたのか解らず、茫然としていた人質たちは、自分たちは助かったのだと解ると同時に歓喜の声をあげた。偽ゼロの手により、次々と拘束が解かれ自由になった人々は、銀行の外へと足を踏み出した。 そんな光景を、信じられない思いで見ていたコーネリアは、開放された人質が出てくる姿を目にし、瞬時に思考を切り替え、親衛隊をはじめとする全ての兵に命令した。 「テロリストどもを捕獲せよ。銀行内にいる偽ゼロと、そこにいるゼロもだ!」 「イエス・ユアハイネス!!」 思考停止していたブリタニア軍人たちは、皇女の声で正気を取り戻した。 歩兵部隊は即座に銀行内へ突入し、KMFはトラックとゼロを取り囲んだ。 あり得ない状況に思考を停止させていたのはコーネリアだけではなく、ゼロも同じ。 しかも弱者である人質救出を、あり得ない手段で偽ゼロが行ってしまったため、目的すら既に失っていたゼロに、KMFの銃口が向けられていた。 これで、ゼロは終わりだ。 誰もがそう思った時、再び騒ぎが起きた。 『偽ゼロが逃走しました!!』 しかも、正面からです!! その声に即座に反応し銀行入口を見ると、丁度銀行内から駆けだしてくる偽ゼロの姿が見えた。まさか、本気で正面突破をするつもりなのか?人外といっていい身体能力を見せ付けられた後では、武器一つ持たない生身の体であっても、KMF相手に大立ち回りが出来るのでは?と、あり得ない想像が働いてしまう。 そうなった場合は、KMFの方が不利だ。 何せ相手は小さな標的、動きも早く、組み合う事さえできないが、相手はこちらの死角にいとも容易く回り込み、機能を停止させる事が出来ると思われる。 下手をすれば、この偽ゼロ一人にブリタニア軍が壊滅する可能性さえ・・・。 何を弱気なことをと、コーネリアはその想像を頭から追い出した。 人間が、KMFに勝てるはずがない。 『所詮生身の体だ!催涙弾を使え!』 あのヘルメットには防毒マスクのような効果はあるのだろうか?撃ってみればわかることだが、相手が生身の人間なら捕獲は容易いはずだ。 そう、相手が生身の人間なら、催涙弾や麻酔を使えば動きを止めるはずだから。 『イエス・ユアハイネス!!』 命令に従い、催涙弾を持った兵が動いたのだが、一手遅かった。 「う~ん、それは困るな。・・・ごめんね?」 偽ゼロは懐から何やら出し、それを地面にたたきつけた。 それと同時に、辺りは視界を遮る煙幕に覆われた。 『・・・慌てるな!センサーで居場所を感知しろ!』 こちらはKMFに騎乗しているのだ。 サーモグラフィーが搭載されている以上、温度差で居場所は解ると思われたのだが。相手は人外な動きで駆けまわる偽ゼロ。 解像度の劣るサーモグラフィーでは、追い切れなかった。 偽ゼロはさっさとこの場を離れる思ったが、何故かKMFへと特攻を仕掛けた。 『・・・まさか!偽ゼロはもういい!ゼロを捕縛しろ!!』 偽ゼロが向かうその先に、ゼロがいる。 幾度も追加される煙幕のせいで、いまだ視界は晴れないが、偽ゼロと違いゼロはその場から身動きすら取れないようだった。 捕縛のために動いていた親衛隊のグロースターの手が、ゼロに伸びる。 そのまま捕縛出来ると誰もが思ったのだが。 「ちょっ、待った!」 KMFの手の中に収まりかけていたゼロを、駆け寄った偽ゼロが一瞬で担ぎ、KMFの上を駆けのぼるとそのまま手近なビルへと飛び移った。・・・恐らく成人男性と思われるゼロを肩に担いだ状態で、20Mはありそうな距離を飛んだのだ。 そして、そのまま止まることなく偽ゼロは駆けて行き、ビルからビルへと飛び移った後、その姿を消した。 あり得ない光景だった。 『・・・なあ、ギルフォード』 『何でしょうか、姫様』 『あれは、人間だったと思うか?それとも、人の姿をした兵器だろうか』 いわゆる、ロボットなではないかという問いに、一瞬納得しかけたギルフォードだったが、すぐに頭を振った。 『・・・あのような兵器の話は聞いたこともありません。もし、あれが人ではなく、機械だとすれば・・・』 『量産されれば、我が国に勝ち目はないだろうな』 この日、ブリタニア軍は、生身の人間相手に完敗した。 |